長編

🗞️K新聞の禁忌欄

横峯市内で体験した「やってはいけない話」を集めています。

地方紙K新聞が運営するメディアサイトの若手ライター成瀬は、夏向けのホラー特集「K新聞の禁忌欄」の企画リーダーに抜擢された。横峯市東部エリアから募集した怖い体験や、地域の“やってはいけないこと”を取材・検証して記事にしていく企画。 たくさんの投稿の中から記事化を進めていくにつれ、編集部や成瀬自身の身の回りで不可解な現象が発生するようになりーー。 怪談蒐集からはじまる連作形式の長編ホラー。 *第2回創元ホラー長編賞に参加中の作品です*ホラー / ミステリー / 現代 / 怪談蒐集

第九話 共通点

【殺人事件のあった場所でコックリさんをしてはいけない】
 ライター:鴨ネギ

「コックリさんって降霊術が流行ってた時期だから、もう何十年も前の話よ」
 五十代になるAさんは、少し懐かしそうな顔をして話してくれた。

 当時は熱狂的なブームで、それこそ社会現象にもなっていて。通っていた小学校でも、当然のように流行っていました。本当に流行り過ぎて、隣町の小学校で騒動が起きたということもあり、そのうち『学校でやってはいけません』って言われるようになっちゃったんです。
 でも、やっぱりみんなやりたいから、学校とは関係なくそれぞれ誰かのお家に集まってやるんですけど、家だと全然動いてくれないんですよね。
 じゃあどうしようって考えて、幽霊が来てくれそうな場所に行ってやってみたらどうかって話になったんです。そして実際に行ってやってみたんですよ、お墓とか、神社とか、事件や事故のあった場所とか。
 そうすると、スイスイって動いて、学校でやった時よりも答えてくれるんです。私たちはすっかり嬉しくなって、そういう場所を常に探していました。

 ある時一緒にコックリさんをやっていた子の一人が「いいところを見つけた」って、連れて行ってくれたところがあるんです。
 そこは昔、大きくて立派なお屋敷があったと言われる場所の跡地でした。ただそのお屋敷は、家主の人がお手伝いさんだか知り合いだかの女の人を殺して、押し入れに隠してたって噂のあるところなんです。
 建物自体はもうすっかりなくなってて、草ぼうぼうの更地。でも平べったい石みたいなのがあって、ちょうどよかったんですよね。
 場所も山にすごく近かったけど、めったに人の来ないほうの道だったので、隠れてやるにはかっこうの場所でした。試しにやってみると、コックリさんはちゃんと来てくれて、質問にも全部答えてくれたんです。
 私たちは夢中になって、しょっちゅうそこでコックリさんをしていました。
 どんなことでも答えてくれるので、そのうち聞くことがなくなった私たちは、コックリさんがどんなお化けなのかを質問するようになったんです。
 コックリさんは女の人で、悪い奴に殺されたと教えてくれました。
 あー、聞いていた通りだなぁと感心していると、コックリさんには子どもがいたといいます。子どもに会いたい、会いたい、と何度も繰り返すので、私たちもすっかり同情してしまいました。
 夕暮れが近づいてきて、そろそろ帰らないといけない時間。
 私たちはそろそろやめようかと「コックリさん、コックリさん、おかえりください」といつものように言いました。
 しかし、その日は鳥居に戻らず、帰ってくれません。
 代わりに「あいたい、あいたい、あいたい」と何度も紙の上を滑ります。
 私たちはだんだん怖くなり、必死に帰るようにお願いしました。
 それでも答えは変わらず、最初は「あいたい」だったのが、そのうち「おいで」に変わりました。
 あまりの恐怖に、指を離しそうになったのですが、吸い付いたようになって離れません。私たちは必死に「おかえりください!」と叫んでいました。
 十円玉は紙の上を「おいで、おいで、いっしょにいこう、うちのこになって」と繰り返すようになっていました。
 するとそのうち一人の子が、こう叫んだんです。

「もう分かったから、おかえりください!」

 すると、十円玉はスーッと鳥居に戻っていき、指も離れました。
 私たちはすぐに片付けて、その場を後にしました。
 帰り道で「もうコックリさんはやめよう、あぶないよ」と話し、その日はみんなそれぞれ自宅に帰りました。

「私たちはそれからコックリさんはやらなくなったし、コックリさんをしていた場所にも近づかなくなりました」
「やっぱり怖くなったから、ですか?」
「それもあるんですけど。『もう分かったから、おかえりください!』って叫んだ子が、それから二日後に山に入って行方不明になっちゃったんです」
「行方不明に?」
「はい。最後に見かけた人が言うには、黒いワンピースを着た女性と、手を繋いで山に向かっていたらしくて」
「無理やり連れて行かれたんでしょうか?」
「いいえ、本当に普通に、親子が手を繋いで歩いてるみたいだったそうです」
 Aさんは遠くを見つめながら、少し悲しそうな顔でポツリと言った。
「彼女はきっと、コックリさんの子どもになっちゃったんでしょうね」

 Aさんも友人たちと一緒になって探したが、結局その子が見つかることはなかったそうだ。

 ◇ ◇

【山から帰ってきた行方不明の人を信じてはいけない】
 ライター:Yuri

 N町の怖い話を調査しているうちに、我々編集部は『山女』という伝承があることに辿り着きました。
 古い資料やお年寄りに話を聞いて調査したところ、ある興味深い昔話を聞くことができました。

「『山女』はねぇ、昔からこの辺に住んでる者の間では、当たり前に言われていた話でねぇ」
 お話をしてくれた九十代の女性はそう言って、小さい頃から聞かされていたという『山女』の昔話をしてくれました。

《帰ってきたおハル》
 村には働き者のおハルという女性がいた。
 村の男と結婚して子どもを二人もうけたが、元々子どもが好きではないおハルは、自分の子どもでも「可愛くない」と渋々育てていたそうだ。
 ある日、山菜を取りに行くと言って出かけたおハルが、日が暮れても帰ってこない。
 山で道に迷ったか、ケガをしたか。もしくは『山女』に連れて行かれたか。
 山に住む『山女』は、昔から人を攫って食うという話があったのだ。
 村人総出で探したが見つからず、途方に暮れていた二日後、おハルが頭にケガをした状態で帰ってきた。聞けば、山菜取りの最中、崖から落ちて気を失っており、ようやく目が覚めたので戻ってきたという。
 頭のケガ以外に大きなケガは無く、おハルは二日ほど休んですぐにまた働きだした。
 しかし、頭を打った影響なのか、おハルはすっかり人が変わってしまった。
 働き者であることに変わりはないが、これまで肉を好んでいたのに、魚が美味しいと魚ばかり食べるようになり、なにより「可愛くない」と嫌っていた子どもを「可愛い可愛い」と離さなくなった。
 聞けば「死にそうな目に遭って、子どもの大切さが分かったからだ」と答える。
 村人はそういうものか、と納得していた。
 しかし、おハルが山から帰ってきて数ヶ月。村には妙な臭いが漂うようになった。
 まるで生き物が腐ったような、酷い臭いがふわっと風に乗って鼻を掠める。
 臭いの出所を探ると、おハルの家。むしろおハル自身からしているようだった。
 こっそりおハルの夫に尋ねると「以前から少しそういう臭いがしていたが、ここ最近はさらに酷くなった。子どもたちも臭いを嫌がり、おハルから逃げ回っている」と言う。
 もしかして『山女』が化けているのでは?
 それであれば、食の好みや性格が変わったのも納得がいく。
 村の男たちはおハルを眠っている間に退治しようと相談し、満月の夜、決行した。
 しかし、眠っている姿はどう見ても働き者のおハルにしか思えない。
 村の男の一人がえいや、と包丁で首を切ろうとしたが失敗してしまい、そのせいでおハルが目を覚ましてしまった。
 目覚めたおハルは人間とは思えぬような動きで飛び上がり、そのまま天井に張り付くと、子どもたちの布団へ向かい、寝ていた二人を攫って外へ出ていく。
 男たちが追いかけると、おハルは泣き喚く子どもを両脇に抱えたまま、山の方へ行ってしまった。
 その後、おハルが帰ってくることは二度となかった。

「いつぐらいからその『山女』の話は言われているんでしょう?」
「ずぅっと昔からさ。昔は『山女』は人を攫って食うって言われてた。だから一人で山に入ったら『山女』に気に入られて持っていかれるぞ、一人で行っちゃならねぇって言われてたのよ」
「なんだか昔話の『山姥』みたいですね」
「うん。最初はそんな存在だったと思う。でも、戦争の前くらいから『山女』が子どもを欲しがるようになったって、言われるようになったらしくてねぇ」
「人なら誰でもよかったのが、『子ども』を狙うようになったんですか?」
「そうらしい。でも、子ども一人で山になんか行かせないでしょう? そうしたら今度は母親に成り代わって、攫うようになったんだって」
 女性が教えてくれた『帰ってきたおハル』という話は、そう言われるようになった頃のお話なんだそうです。
「見分ける方法はないんですか?」
「まぁあるとしたら、お話みたいに好みが変わって、子どもへの執着がすごくなるとかじゃないかなぁ」
 どうやら見た目だけでは、山女が成り代わっているかどうかは、分からないらしい。
「だから、昔から住んでるこの辺の人たちは、山でみんなとはぐれたとか、一時的に行方不明になって一人の時間があったような人は、まず神社か寺に連れていったほうがええって言うのよ」

 確かに、N町にあるN山はそこまで険しい山というわけではありませんが、毎年のように行方不明者が出たり、事故が後を絶たない場所でもあります。
 そのうちのいくつかは『山女』が関係しているのかもしれません。

 ◇ ◇

【事故物件を映した動画を見てはいけない】
 ライター:ほたる

「私はねぇ、ダビングやコピー用の真っ白いDVDディスクがあるでしょう? あれが怖いんです」
 投稿者の四十代の男性は、そう言ってこんな話をしてくれました。

 けっこう前の話なんだけど、駅前で行われていたフリーマーケットをなんとなく見て回っていたら、昔欲しかったDVDが売っていたんです。値段も随分安くて。よくよく見ると、これとこれをセットで買うならこの値段って書かれていました。
 どうしても欲しかったDVDだったので「まぁオマケのほうはつまんなかったら捨てればいいか」とそのままセットで購入しました。
 帰ってから早速欲しかったDVDを鑑賞しました。ディスクに難はなく、最後までちゃんと見れたし、やっぱり面白かったです。
 そして問題は、抱き合わせで買わされたDVD。
 よくある簡易な平べったいケースを開けると、ディスクが一枚入っていました。ダビングやコピー用に使ういわゆる生ディスクで、真っ白な面に『事故物件』と黒いマジックで殴り書いてあります。
 素人が作ったホラー映画かなにかかなぁと思い、興味本位で再生してみました。
 特に何の説明もなく、画面にいきなりパッと風景が映し出されました。見るからに古ぼけた、アパートの玄関が映っています。
 明らかに家庭用のハンディカメラか何かで撮ったような画質で、画面もブレブレ。何より気になったのは、撮影者と思われる人間の、ハァハァという息遣いが聞こえることでした。随分明るいので、多分昼間に撮られたものでしょう。
 最初はホラーでよくあるPOV映画かとも思いましたが、映画というよりただ撮影しただけ、という感じです。
 意を決したように玄関ドアを開け、カメラはアパートの部屋に入っていきました。
 中はひどいゴミ屋敷で、見ているだけですごい悪臭がしそうだな、と顔をしかめたくらいです。
 カメラがぐるりと室内を見回します。ゴミまみれの短い廊下、右手にキッチン、左手にトイレと思われるドアがありました。そしてゆっくりと、ゴミの隙間を縫うように、短い廊下を進んでいきます。
 室内は二部屋あるようで、キッチンと繋がるリビングがあり、その反対奥に寝室と思われる畳敷きの部屋が見えました。あちこちにゴミが散乱していて、ブーンブーンとハエの飛び回る音も入っていました。
 最初に見回ったリビングのほうには誰もいないようで、次に寝室のほうへカメラが向かう。ゴミの隙間に布団らしきものが敷いてあるのが見えました。
 少しずつ近づくと、誰かが寝ているのか布団が微妙に膨らんでいます。ハエが多いのか、羽音がよりうるさくなってきました。
 常に聞こえていた息遣いが、より荒くなってくるのが分かります。やがて撮影者がえずきはじめたので、臭いが酷いのでしょう。もしかしたら、布団の中に遺体があるのかもしれません。
 しかし撮影者は怖気付いたのか、布団の方にはそれ以上近づかず、そのまま少しずつ後退し、画面が逃げるようにくるりと玄関を向きました。
 そこに、女が立っていたんです。
 電気のついていない室内ですが、外から入り込む光で赤いワンピースを着ているとかろうじて分かります。足元は裸足で、爪にマニキュアが塗ってありました。黒い髪はボサボサに伸びていて、背中の真ん中くらいまではあったと思います。
 青白い顔面に目鼻口がありますが、目の辺りは真っ黒なただの穴になっていて、どこを見ているのかも分かりません。
 撮影者は悲鳴をあげ、持っていたビデオカメラを放り出したのか、画面はガタガタと何を写しているのかも分からないくらいに激しく揺れ、ゴトっという音と共にリビング側の窓のあたりを写して静止しました。
 画面の下部には撮影者と思われる男が懸命に窓を開け、そこからなんとか逃げ出そうと這い登って出ていく様子が写っています。
 男が去った後、画面はただ静かなまま、ハエの飛び回る音が響いています。
 ここからさらに何かが起きるのだろうか? 身構えつつ見ていると、小さく何か聞こえているのに気付きました。
「〇〇ちゃ〜ん、〇〇ちゃ〜ん」
 誰かの名前を呼ぶか細い声。
 何度か呼びかけが繰り返された後、画面はブツっと切れてしまいました。

「嫌な動画ですねぇ」
 そう言いながら、私がゾクゾクする腕をさすっていると、投稿者は意外なことを言いました。
「何を言っているんですか、嫌なのはここからですよ」
「えっ、どういうことですか?」

 嫌な動画を見たなぁ、と思ったその日の夜、動画とまったく同じ状況の夢を見たんです。
 動画の通りにアパートに入り、ゴミの山をかき分けて奥に進み、遺体があると思われる部屋を見て、振り返りたくもないのに振り返るんです。
 私は動画の通りに叫びながら窓から逃げ出すんですが、同じように叫び声を上げながら夢から目覚めました。
 ベッドの上でなんて夢を見たんだ、と呼吸を整えていると、聞こえるんです。
 小さく細く「〇〇ちゃ〜ん、〇〇ちゃ〜ん」と、女の呼ぶ声が。
 どこから声がするのかと辺りを見回すと、窓の外からするようでした。
 時計を見ると、深夜の二時。
 さすがに怖くて開けることもできなかったので、布団を頭まで被って震えていました。
 ものすごく小さい声なのに、布団を被っても延々と聞こえていたのが本当に怖かったです。
 声は明るくなる頃になってようやく聞こえなくなりました。

「そのDVDはその後どうされたんですか?」
「もちろんすぐに捨てましたよ! 気持ち悪過ぎますもん!」
 一体誰が何のために作った動画だったのでしょうか。

 ◇ ◇

「別人になってた伝承の話さぁ、【なだらかな山でも注意を怠ってはいけない】の話のこと考えると、あれってもしかして……って思っちゃわない?」
「思っちゃう、よねぇ……」
 アクセス数の表示されるモニターを眺めながら、辻堂と久地が険しい顔をしていた。数字はいつも以上に好調で、一番上に表示されているのは【山から帰ってきた行方不明の人を信じてはいけない】だが、読者も同じことを考えているのか、アクセスの落ち着いていた【なだらかな山でも注意を怠ってはいけない】の話がまたぐんと上位に上がってきている。
「オカルト研究会のレポートにも、同じような伝承の記述がありましたし、七摘山では昔から言われてる伝承だったんでしょうね」
 成瀬がそう言いながら、該当するページを開いたレポートを辻堂に渡した。受け取ったページに書かれた『山女』の文字と、そこに一緒にでてくる『七摘山』の文字を辻堂はジッと見つめる。
「なーんか、とことん七摘町の話ばっかりって感じになっちゃったわね」
「そうですね。俺が書いた【事故物件を映した動画を見てはいけない】に出てくるアパートも、たぶん七摘町にある例の事故物件アパートですし」
「ああ、赤いほうの女が出てくるから?」
「実は記事には書けなかったんですが、最後に映る窓の外の景色、あれがどうみても七摘山だったそうで……」
「……うわぁ」
 久地が心底嫌そうな顔で引いていた。
「そこまでくると、あのアパートで確定ね」
「はい」
「あ、そういえば。その女が呼びかけてるって名前、なんていうの?」
 興味本位で尋ねただけだったが、成瀬はこれでもかと言わんばかりに嫌そうな顔を久地に向ける。
「……え。なんでそんな顔」
「女が呼んでる名前、あれ『ケイちゃん』なんです」
「えっ? ……あ!」
「成瀬くんと同じ名前なのよね」
 隣で聞いていた辻堂が気の毒そうに笑った。
「ついでに言うと【事故現場で手を合わせてはいけない】で女が呼んでる名前も同じです。まぁ、よくある名前なんで仕方ないですけど。さすがにちょっと嫌ですよね」
「それは、そうだね……」
 久地と辻堂は顔を見合わせると「今後はこの話に触れないようにしよう」と頷きあう。
 そんな二人のことなどお構いなしに、成瀬は辻堂からレポートを返してもらうと、パラパラとめくり始めた。
「それとこれもまだ憶測なんですが、コックリさんをしていた場所も、例の事故物件アパートも同じ場所なんじゃないかなって思ってて……」
「え、ほんとに?」
「はい。実は七摘町には『厄囮やくおとりの家』があったっぽいんです」
「厄囮の家?」
 聞き返す久地に、成瀬はレポートの最後の方にある、図案付きのページを見せる。そこには『厄囮の家』を建てる場所を決める方法や、どんな家を建てるのか、ということが事細かに解説されていたのだ。
「病気とか災害とか、何か悪いことが立て続けにあった時、悪いものが集まりやすいとされる方角にわざと家を建てて、その集落に降りかかる災いを一箇所に集めてしまうっていう方法があるそうなんです」
「『鬼門封じ』とか『方位避け』みたいな感じかしら?」
「まぁ、そういうのが近いと思います」
 よくある『鬼門封じ』は悪い方角の邪気を払い、『方位避け』は年によって変わる凶方位向けに祈願するものである。しかし『厄囮の家』は、災厄を集めて肩代わりしてもらうという感じらしいので、どこか呪術的なものを感じる方法だ。
「でも、そんなとこ誰も住まないよね?」
「ええ。でもただそこに『家』があればいいらしいので、空き家として放置するみたいですよ」
「へー、勿体ないね」
 そう言いながら『厄囮の家』の条件に目を通した久地が、成瀬にレポートを返した。
 囮とはいえ、その家には『人が住んでいるように見せる』という条件があり、最低限の家具を用意する必要があるらしい。誰も住まない家に家具などを揃えるというのも、確かに勿体なく思える。
「で、その『厄囮の家』を巡って色々あったらしい、というのがオカルト研究会のレポートの最後の方に書かれてまして。このレポートの次の巻になら載ってたようなんですよね」
 成瀬がそう言って、レポートの最後のページを眺めた。
 七摘町についての調査は書ききれていないらしく、続きのあるような文章で締めくくられている。
「ああ。でも、燃えちゃったんだよね?」
「そうなんですよ。でもこの間、その『厄囮の家』に関わったっぽい人からの投稿があったんで、ちょっと話を聞いてこようと思って」
 そう言うと、成瀬は自席に置いてあったファイルをとってきて、中に入れてあった一枚の用紙を久地と辻堂に見せた。
「……【壊してはいけない家を壊した話】? これも七摘町での体験談?」
「ええ。そのなんだかいわくのありそうな場所と、人殺しや人死にのあったよくない場所。なんだか同じような場所な気がしません?」
「確かに、町内にいくつもそんないわく付きの場所あるわけないし、だったら同じ場所の可能性はありそうね」
「そしてそこに現れる『山女』。絶対なにか関係があると思うんです」
 最初こそ、何の関係もないと思われたいくつかの話。
 その話に見出した共通点を繋いだら、とんでもない事実を引き当てそうな事態になっている。
「でも、大丈夫? 危なくない?」
「まぁ確かに心配な部分はありますけど……」
 成瀬はふと、自宅で起きている怪現象を思い浮かべていた。
 未だに気付くと新聞受けが開いていて、その隙間の前を影が通っていくことがある。しかし、きちんと距離をとっているせいか、それ以上の怖いことは起こっていない。
「でも、記事のコメント欄も『山女』のことで盛り上がってるもんねぇ」
 サイトに設置した記事に対してのコメント欄では、『山女』についてのそれぞれの考察が書き込まれている。アクセス数もかなり上がっており、企画リーダーとしてもこの機会を逃すわけにはいかない。
「ええ。絶好の機会ですし、もうこうなったらとことん調べてみますよ『山女』のこと」
 成瀬は新しい投稿記事の内容を印刷したプリントを見つめて言った。